日本を離れオーストラリアで生活するには、単に新しい文化や環境に適応するだけでなく、現地の健康や医療に関する情報に熟知する必要も出てきます。
特に性病(性感染症)は性行為をする誰しもが感染する可能性がある、決して他人事ではない病気です。
性病については、さまざまな情報が溢れているからこそ不安も大きいと思います。まずは病気を正しく理解することが必要です。
性病の理解
定義: 性病は、しばしば性感染症(STI)と呼ばれ、性的接触によって感染する病気です。例えば、エイズを引き起こすHIVは、性的接触によって感染する病気の一つです。
オーストラリアでの有病率: クラミジア(Chlamydia)は、オーストラリアで最も頻繁に発生するSTIです。性的に活発で30歳未満の人は、この病気に感染するリスクが最も高くなります。淋病(Gonorrhoea)と梅毒(Syphilis)も、クラミジアほどではありませんが、オーストラリアにも存在します。
UNSW Kirby Instituteによる2021年の調査では、オーストラリア全土で下記3つの病気の診断数が明らかになっています。
– クラミジア:86,916件
– 淋病:26,577件
– 感染性梅毒:5,570件
定期的な検査の重要性
性病の多くはすぐに症状が現れないことがあります。自覚症状がないにもかかわらずSTIと診断された患者さんは数多くいらっしゃいます。ヘルペスはそのような沈黙の疾患の一例です。ヘルペス感染者は、一度も発症することなくウイルスを保有し、拡散してしまうこともあります。
日本人のコミュニティでは、個人的な健康問題についてオープンに話し合うことに抵抗があり、これが障壁となることがあるかと思います。特に若い女性は、恥ずかしいと感じたり、批判されることを恐れて検査を受けるのをためらったりすることがあるかもしれません。しかし、性病の中には、症状が現れた時には進行しているケースもあります。
定期的な性病検査を受けることで早期発見し、早期治療につなげることができます。若い方の場合は一年に一度、もしくはパートナーが変わるたびに検査を受けておくことをお勧めします。STI検査は当院で簡単に受けることができますので、特に違和感がない場合も気負わずにご相談いただきたいと思います。
オーストラリアで利用可能な検査オプション
セクシャルヘルスクリニック: クイーンズランド州政府保健局は、州内のセクシュアル・ヘルスとHIVサービスのリストを管理しており、貴重な情報源です。また、便利なサービス検索マップもあります。
GPクリニック: クリニックでは、子宮頸がん検診や性病検査、避妊ピルの処方を行っています。性に関する心配事や、被害に対しても相談することが出来ます。守秘義務は徹底されており、必要に応じて専門医への紹介も可能です。
家庭用検査キット: 近所の薬局で購入できるキットで、自宅で初回スクリーニングが可能です。ただし、これは予備的なもので、専門家の診察が最終的な診断となります。
経過観察の重要性: STIの陽性反応が出たら、健康状態を一貫してチェックすることが大切です。薬の効果をモニタリングするにしても、STIが完全に駆除されたことを確認するにしても、医師による経過観察が重要となります。
オーストラリアにおける性病治療
初期段階 : 迅速に専門家の診察を受けることが重要です。対面であれ、オンライン診療であれ、タイムリーな医療アドバイスが欠かせません。早期に診察を受けることが、迅速かつ効率的な回復につながります。
細菌感染:クラミジアのような性病には、通常抗生物質が必要です。オーストラリアでは、一般的にアジスロマイシン(Azithromycin)やドキシサイクリン(Doxycycline)が処方されます。
ウイルス感染症: HIVやヘルペスなどのウイルス性疾患の中には、抗ウイルス薬など、より長期的な治療が必要なものもあります。多くの場合、治療は完治を目指すよりも、発症を抑えることに重点が置かれます。
コミュニケーション : 英語が堪能ではありませんか?オーストラリアの一部の医療機関では、診断や治療計画を十分に理解するために通訳を利用することが可能です。
予防のメカニズム
安全な性行為:コンドームを常に使用することで、性病のリスクを大幅に減らすことができます。
ワクチン接種: 例えば、HPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチンは重要な予防手段です。オーストラリアでは、若い成人には以前から標準的に接種されています。オーストラリア予防接種ハンドブックでは、以下の特定のグループにHPVワクチン接種を推奨しています:
– 9歳から25歳の若年層
– 免疫力が著しく低下している人
– 他の男性と性交渉を持つ男性
日本人居住者へのサポート体制
日本語専門のクリニック: さくらファミリークリニックなど、オーストラリアに住む日本人専用の医療機関もあり、言葉の壁で受診をためらうことがありません。
地域に根ざしたサポート:オーストラリアにある日本人会では、健康に焦点を当てたイベントを頻繁に開催しており、現地の医療制度について理解を深めることができます。また、2つの文化の橋渡しも担っています。
デジタル・プラットフォーム: テクノロジーを駆使すれば、オーストラリアに住む日本人向けに数多くのオンライン・プラットフォームが用意されています。これらのプラットフォームは、オンライン・ドクターからサポート・グループまで多岐にわたります。
おわりに
オーストラリアはチャンスに恵まれた国ですが、同時に特有の健康上の課題もあります。色々な人に出会う中で、自分の健康をしっかり守っていく必要があります。
オーストラリア在住の皆さんは、日本人コミュニティのサポートやオンラインを利用したサポートなどをうまく活用して健康を最優先に生活を楽しんでください。
定期的に性病検査を受け、性の健康についてもオープンに話しあい、少しでも不安があれば早めに受診しましょう。

吉田まゆみ医師
MBBS, BMedSci, MRCGP, DFSRH (UK), FRACGP (Australia)
福岡県出身。16才の時に家族で渡英。2003 年に英国ノッティンガム大学医学部を卒業、イギリスの医師免許を取得。2007年にアメリカの医師免許資格(ECFMG Certificate)を取得。2014年に英国オックスフォードでGP課程を習得、イギリスとオーストラリア両国のGP資格を保持する。現在4つ目の国家資格取得を目指し、日本の医師免許試験に向けて勉強中。三児の母。セクシャルヘルスのディプロマを持っており、避妊や性病に関するアドバイスも行っている。一般内科および婦人科、妊婦健診、小児科の診察、予防接種を主に担当している。