さくらファミリークリニックに来院される日本人の患者さんの中には、ブリスベンを生活の拠点としている方々の他に、一時的にこの亜熱帯の都市を訪れている方も多くいらっしゃいます。様々な文化や風景が融合するオーストラリアでの滞在は、人生を豊かにしてくれることでしょう。しかし、どこの国でもそうであるように、時には予期せぬけがや体調不良などの緊急事態が起きてしまうこともあります。
さくらファミリークリニックでは、平日の8時から5時まで、受付スタッフや医師による日本語での緊急の相談に対応することが可能です。その上で必要と診断された場合には、当院医師の紹介状を持って専門医や救急病院を受診していただくことができます。海外旅行保険をお持ちの方はキャッシュレスでの受診が可能です。
今回は、クリニックが閉まっている時間帯に急を要する怪我や事件、事故に巻き込まれてしまった場合や体調が急変した場合にどう対応すればよいかをお話ししたいと思います。
不測の事態に対処するためには、事前の情報収集が必要です。オーストラリアで時間外の救急医療が必要になった場合、どのように対応すべきかを知っておきましょう。
緊急性の高い症状
早急な医療処置が必要な可能性のある場合について、いくつかリストアップしておきます。
重要な状況
胸の痛み: 家族歴や持病がある中高年の方の場合、20分以上続く持続的な胸の痛みは赤信号です。胃痛やストレス、肺の問題である可能性もありますが、息切れや動悸、めまいを伴う場合は心臓の問題でないことを確認する必要がありますので、早急に医師の診察を受けてください。
呼吸困難: 子供の喘息やクループなどの感染症、呼吸器疾患は夜に悪化することが多いですが、息苦しさを感じる場合はためらわずに救急を受診してください。
アレルギー反応: 食後の腫れや呼吸困難は、アレルギーの可能性が高いです。エピペンを使ってから救急車を呼びましょう。早急な処置が症状の悪化を防ぎます。
脳卒中の可能性: 頭痛、手足の感覚がない、視覚異常などの脳卒中が疑われる場合は、迅速に対応する必要があります。早期の治療により、長期的なダメージや合併症を防ぐことができます。
火傷: 火傷は、それほど深刻でないように見えても、適切な治療を受けなければ悪化する可能性があります。仕事中で忙しくても、まずはしっかり流水で20分間冷やしてください。出来るだけ早く病院に行くことで、感染症や傷の悪化を防ぐことが出来ます。
暴行事件: 海外では日本人が事件や事故に巻き込まれることがよくあります。ブリスベンでも同様です。夜中に一人で出歩いたりしないなど、日本に住んでいる時以上に身の回りに気を付けてください。
交通事故: 事故の際には自分の身の安全を確保しつつ行動してください。警察に連絡して、痛みがある場合は救急車を呼んでもらいましょう。
水難事故
オーストラリアには世界でも有数の素晴らしいビーチがいくつもあり、多くの人が海水浴を楽しんでいます。日本人にとってもオーストラリアでは、海水浴は外せないアクティビティの一つです。しかし、海水浴は時に危険を伴います。強力な離岸流、突然の波、海底の変動は、波打ち際で泳ぐことをたちまち命がけの状況に変えてしまいます。昨年、オーストラリアでは1000人以上の水の事故が報告されています。
水から上がった後に気分が良くなっても、合併症の可能性があるため、速やかに医師の診断を受けてください。水難事故に関しては、常に安全第一を心がけましょう。
二次溺水の危険性: 肺に入った水が炎症や腫れを引き起こすことがあります。これは “二次溺水 “または “遅延溺水 “と呼ばれています。溺れかけてから数時間後に起こることもあります。症状はすぐには現れませんが、後になって発症し、生命を脅かすこともあります。
酸素モニタリングの必要性: 溺れかけた後、脳や他の重要な臓器にどれだけの酸素が届いているかをチェックします。酸素レベルをモニターし、低酸素症(細胞や組織に十分な酸素が行き渡らない状態)がないことを確認することが大切です。
感染リスク: 海水等、特に非塩素系の水を誤嚥すると、肺に細菌が入り込み、肺炎などの感染症を引き起こすことがあります。
他の外傷の確認: 事故による負傷は、すぐにはわからないことがよくあります。頭を打っていたり、ショック状態である可能性もあります。病院で経過を確認していきましょう。
特記事項 :妊娠中の緊急事態
妊娠されている方は、自分自身と生まれてくる子供のことを最優先に行動していきましょう。
異常な腹痛: 24週以降にいつもとは違う鋭い痛みを感じた場合、すぐに病院を受診したことをお勧めします。詳しい胎児の診察で問題がないことが確認できれば、不安を取り除くことが出来ます。問題がある場合は専門の医療チームがすぐに対処することで命を救うことができます。
斑点または出血: 妊娠中、出血を伴う場合は注意が必要です。早期でエコーを受けていない場合や妊娠中期以降は、早めの受診をお勧めします。
胎動の減少: 28週以降、赤ちゃんの動きが少なくなるのは、深刻な問題を示唆している可能性があります。赤ちゃんの様子がいつもとちがっておかしいと感じたら、出来るだけ早く医師の診察を受けることが大切です。
救急病院への交通手段
緊急時には迅速な判断が不可欠です。落ち着いて行動していきましょう。
救急車: 大きな怪我や重症の場合は迷わず救急車を呼びましょう。緊急の医療処置が必要な場合は、000をダイヤルして救急車を呼んでください。救急車には即座に治療を行うための設備が整っており、迅速な対応で命を救うことができます。
ライドシェア: ブリスベンのライドシェアサービスには、Uber、Ola、InGoGo、Didiなどがあります。ドライバーに緊急事態であることを理解してもらい、最寄りの病院へ連れて行ってもらってください。ライドシェアアプリのダウンロードリンクはこちらです。
タクシー : Yellow Cabs (131 924)とBlack and White Cabs (131 008)が、ブリスベンとその周辺地域で公式に認められている2つのサービスです。ブリスベンでは、クイーンズランド州政府がタクシー料金を規制しています。
病院
どの病院にも、救急患者を受け入れるための一連の手順があります。
トリアージ: この最初の評価によって、治療の緊急度が決定されます。トリアージシステムは、緊急性の高い症例から対応するようにカテゴリーが分けられています。医師チームの診察の前に、看護師の問診で緊急度のタグ付けがされます。緊急度が低いと判断された場合は、4時間以上待つこともよくありますが、赤ちゃんや子供は比較的早く診てもらえます。
書類作成: パスポートなどの公的な身分証明書と、ご加入の保険証券の詳細をお持ちください。入院手続きがスムーズになります。現在服用している薬の詳細を尋ねられることがあるので、処方箋やお薬手帳の詳細があれば役に立ちます。さくらファミリークリニックを受診後に救急病院に行く場合は、医師からの診断書を受付に提出してください。
ブリスベンの救急病院
ブリスベンには、24時間年中無休で救急患者を受け入れている病院がいくつかあります。お住まいの地域や保険の種類に応じて、行き先を決めましょう。
小児救急病院(16歳未満の子供)
Queensland Children’s Hospital
501 Stanley Street, South Brisbane
Ph. 07 3068 1111
https://www.childrens.health.qld.gov.au/lcch/
産婦人科救急病院
Mater Mother’s Hospital
Pregnancy Assessment Centre
Raymond Terrance, South Brisbane
Ph. 07 3163 8000
https://www.matermothers.org.au/services/pregnancy-assessment-centre
メディケアまたはOSHC学生保険加入者向け公立病院
RBWH (Royal Brisbane and Women’s Hospital)
Accident and Emergency
Butterfield St, Herston
Ph. 07 36468111
https://metronorth.health.qld.gov.au/rbwh/
Mater Hospital
Accident and Emergency
Raymond Terrace, South Brisbane
Ph. 07 31638111
http://www.mater.org.au/health/services/emergency-care/emergency-care-public
Princes Alexander Hospital
199 Ipswich Road, Woolloongabba
Ph. 07 3176 2111
https://metrosouth.health.qld.gov.au/princess-alexandra-hospital
民間保険が使える病院(海外旅行保険、現地民間保険、AON)
Wesley Private Hospital A+E – Wesley
451 Coronation Drive, Auchenflower
(Chasely St, Main Entrance)
Ph. 07 3232 7000
Greenslopes Private Hospital A+E – Greenslopes
Newdegate Street
Greenslopes
Ph. (07) 3394 7654 (24/7 Emergency Centre)
https://www.greenslopesprivate.com.au
救急病院に行けない場合
13SICK (訪問診療)
かかりつけ医が休診の場合は、13SICK National Home Doctorを利用することもできます。医療従事者が自宅まで来てくれるまで、2~3時間待つことになりますが、メディケアに加入していれば、診察料は無料です。詳しくはこちらの動画をご覧ください。
Ph. 137425
Metro North Health Virtual Emergency Department
クイーンズランド州にお住まいで、遠隔健康相談が可能なデバイス(ビデオ、オーディオ、インターネット)をお持ちの方は、こちらのサービスをご利用いただけます。
注意:特定の深刻な医療援助状況(リンク参照)では、このサービスを使用しないでください。
https://metronorth.health.qld.gov.au/hospitals-services/virtual-ed
終わりに
海外に滞在予定の場合は、緊急事態に備えてすぐに連絡できる近くの病院をリストアップしておくと安心です。
ブリスベンにある最寄りの救急病院を把握し、交通手段を理解し、到着までの見通しを立てておくことで、いざというときに慌てずに、素早く自信を持って行動することができます。観光の計画を立てるのと同じように、安全のプランも準備しておきましょう。

吉田まゆみ医師
MBBS, BMedSci, MRCGP, DFSRH (UK), FRACGP (Australia)
福岡県出身。16才の時に家族で渡英。2003 年に英国ノッティンガム大学医学部を卒業、イギリスの医師免許を取得。2007年にアメリカの医師免許資格(ECFMG Certificate)を取得。2014年に英国オックスフォードでGP課程を習得、イギリスとオーストラリア両国のGP資格を保持する。現在4つ目の国家資格取得を目指し、日本の医師免許試験に向けて勉強中。三児の母。セクシャルヘルスのディプロマを持っており、避妊や性病に関するアドバイスも行っている。一般内科および婦人科、妊婦健診、小児科の診察、予防接種を主に担当している。