今回はオーストラリアにおけるインフルエンザについてお話ししたいと思います。
オーストラリア在住の日本人医師として、毎年多くの日本人のインフルエンザの患者さんの診察、治療、及び予防に当たってきましたが、その経験からインフルエンザを予防するにはまずはインフルエンザを理解することが必要だと実感しているからです。
インフルエンザを理解する – A型とB型
インフルエンザには、A型とB型があります。
A型インフルエンザ:重症化しやすく、大流行を引き起こすことで知られています。
B型インフルエンザ:通常はA型より軽いものの、それでも特に子供にとってはつらい症状となります。
オーストラリアのインフルエンザ・シーズンは、通常7月から8月にかけてピークを迎えます。日本では夏の時期ですが、オーストラリアでは冬の時期に当たります。オーストラリアではA型もB型もよく見られます。オーストラリア政府は、2週間に1度、オーストラリア・インフルエンザ・サーベイランス・レポートを発表し、オーストラリア社会におけるインフルエンザの流行を追跡しています。
A型インフルエンザはより一般的で、アヒル、ニワトリ、ブタなど多くの動物に見られます。宿主の範囲が広いため、インフルエンザの大流行の原因となっています。A型インフルエンザ・ウイルスは急速に変異し、ヒトの免疫システムが対応できない新型インフルエンザ・ウイルスになる可能性があるからです。この急激な変化により、発熱や咳から肺炎のような極端な症例まで、より重篤な症状を引き起こすことが多いのが特徴です。
一方、B型インフルエンザは、主にヒトに感染します。B型インフルエンザは流行を引き起こす可能性はありますが、A型のように広範囲に広がるパンデミックを引き起こすことはありません。一般的に、B型インフルエンザの症状はA型インフルエンザの症状と似ているものの、多くの場合、症状が軽いものが多いです。しかし、一部の人、特に特定の基礎疾患を持つ人では、B型でも重篤な合併症を引き起こす可能性があります。
要するに、どちらの型でも病気になる可能性はありますが、A型は急速に広がって重症化する可能性が高いのに対し、B型は重症化する可能性はやや低いものの、重大な健康リスクをもたらす可能性があるということです。
こちらに来たばかりの日本人が、ホームステイやシェアハウス、バックパッカーなどの慣れない環境の中でインフルエンザにかかってしまうと、体調不良なのに口に合わない食べ物が多かったり、ゆっくり休めなかったりで不安とつらい思いを抱えてしまうこともよくあります。
インフルエンザの症状を理解し、受診する
インフルエンザは、軽いものから重いものまで様々な症状があり、通常、突然発症します。高熱が出ることもあり、悪寒を伴うことも多いです。
筋肉痛や疲労感も一般的で、特に脱力感や消耗感が強くなります。しつこい咳などの呼吸器症状が現れ、時には胸の不快感につながることもあります。頭痛、喉の痛み、鼻水や鼻づまりを訴える人も多いです。
病気が進行すると、熱が下がるにつれて汗をかくことも珍しくありません。インフルエンザが重症化すると、特に高齢者や基礎疾患を持つ人のような感染しやすいグループでは、肺炎などの合併症を引き起こすケースがあります。
また、インフルエンザと風邪は症状が重なるため混同されることもありますが、インフルエンザの症状はより強く、突然現れる傾向があることも知っておくとよいでしょう。
数日間体調が悪い場合、特に熱がある場合は、医師の診察を受けることをお勧めします。自分の体の声に耳を傾けることは大切で、体調が悪いと感じたら、安静にし、医療機関を受診するなど周りの助けを借りるようにしましょう。
マスク着用に対する意識の違い
病気の際のマスク着用に対する文化的な考え方は、日本とオーストラリアでは大きく異なります。マスクへの抵抗感や慣れは、国や文化によって違います。日本では、特にインフルエンザの流行期にマスクを着用することは、社会的習慣ともいえるでしょう。これは他人を思いやる行動であり、病気の蔓延を防ぐ方法だと考えられています。
特に人が集まる公共の場では他人に迷惑をかけないため、あるいは細菌から身を守るためにマスクをすることは一般的で、マスクに対する拒否感はほとんどないと言って良いでしょう。
一方、オーストラリア人は昔から、病気のときにマスクを着用する習慣はありません。COVID-19のパンデミックのような世界的な健康事件が起こる以前は、オーストラリアでマスクをしている人を見かけることはほとんどありませんでした。具合が悪い場合は仕事や学校を休んで家から出ないようにして人と距離を置いたりすることで対応し、以前は予防策としてマスクを着用する習慣はなかったため、マスクをすることに対して抵抗を感じるのでしょう。
ワクチン接種 大きな防御
インフルエンザを避ける最善の方法の一つは、予防接種を受けることです。毎年、オーストラリアの専門家は、A型とB型の両方を予防できるインフルエンザの予防接種を受けることを勧めています。
日本でインフルエンザの予防接種を受けた人でも、6か月の期間が過ぎていれば効果はありません。オーストラリアでの冬に備えて再度予防接種を受けることをお勧めいたします。
インフルエンザの予防接種は、6ヶ月から5歳未満の小児、妊婦、65歳以上の高齢者など、最もリスクの高い人々を対象に、全国予防接種プログラムにより無料で受けることができます。それ以外の人は少額の料金がかかります。多くの薬局では、予約不要で予防接種を受けることもできます。
オーストラリアでインフルエンザから身を守るには: 日本人居住者のためのヒント
インフルエンザに感染しないためには、日本で学んだこととオーストラリアで最も効果的とされていることを組み合わせていくとよいかもしれません。
こまめな手洗いを心がけ、マスクを着用し、インフルエンザが流行する時期はなるべく人混みを避けましょう。感染の疑いがある人や物に触れた場合は、特に目や鼻、口をこすらないように注意してください。
食事で免疫力を高めることは、インフルエンザを含む病気の予防に効果的です。ここでは、人によっては効果が期待できるオージーフード5種類を紹介しましょう。
柑橘類: オレンジ、レモン、グレープフルーツ、ライムにはビタミンCがたっぷり含まれており、感染症を撃退するのに不可欠な白血球の生産を増やすことが知られています。
ニンニク: 世界中でよく使われているこの食材には、免疫力を高める作用のあるアリシンが含まれています。ニンニクを定期的に摂取することで、インフルエンザや風邪を予防することができます。
ショウガ: 風邪をひいた後によく利用される生姜は、抗炎症作用や抗酸化作用があるため、インフルエンザの予防にも役立ちます。料理に加えたり、紅茶として飲んだり、サプリメントとして摂取することもできます。
ヨーグルト: ヨーグルトのラベルに「 live and active cultures(生きた活性培養菌)」と記載されているものを探しましょう。これらの培養菌は免疫システムを刺激し、病気と闘うのを助けます。ヨーグルトにはビタミンDも豊富に含まれており、免疫力アップに役立ちます。
ほうれん草:ほうれん草はビタミンCが豊富なだけでなく、抗酸化物質やβ-カロテンがたっぷり含まれており、体内の感染症と闘う力を高めてくれます。栄養素を保つために、できるだけ加熱しないほうが効果的です。
普段の食事にこれらの食品を取り入れ、バランスの取れた食事を摂ることが、インフルエンザやその他の病気の予防につながります。
十分な休息をとることも大切です。睡眠は体を休める重要な時間であり、研究によると、睡眠は免疫システムを強固にするために重要な役割を果たしています。睡眠がワクチンの効果を高めることも、研究によって明らかにされています。
インフルエンザにかかったら
オーストラリアでは、インフルエンザに対処するために、処方薬と市販薬の両方が用意されています。
インフルエンザと診断された場合、特に重症な例やハイリスクグループには、オセルタミビル(商品名タミフル)やザナミビル(商品名リレンザ)などの抗ウイルス処方薬が一般的に処方されます。これらは、症状が現れてから48時間以内に服用すれば、インフルエンザの重症度と罹病期間を軽減するのに役立ちます。
処方薬以外では、一般用医薬品(OTC)が薬局で広く販売されています。これには、パラセタモール(パナドール)やイブプロフェンなどの鎮痛剤や解熱剤が含まれます。また、呼吸器症状を抑えるために、咳止めや去痰剤も販売されています。さらに、のど飴や点鼻薬は、それぞれ喉の痛みや鼻づまりを緩和してくれます。
特に他の薬と併用する場合や基礎疾患がある場合は、薬を服用する前に薬剤師または一般開業医(GP)に相談し、安全性と自分に合っていることを確認することが不可欠です。
オーストラリアの薬局にはインフルエンザ関連の薬の種類が多く何を選んだら良いのか戸惑うという声もよく聞きます。日本で飲んでいるのを同じようなお薬を希望される場合も、当院にて適切なアドバイスが可能です。
インフルエンザに対するオーストラリアの家庭療法
オーストラリアでは、世界中の多くの地域と同様、インフルエンザや風邪の症状に対処するための伝統的な家庭療法が何世代にもわたって受け継がれてきました。
そのひとつに、レモンと蜂蜜を入れて飲む温かい紅茶があります。はちみつは天然の咳止めとして働き、のどの痛みを和らげ、レモンにはビタミンCが入っており免疫系を高めるとされています。
また、ユーカリオイルを胸に塗ったり、蒸し風呂に数滴たらすのも一般的です。ユーカリはオーストラリア原産で、抗ウイルス作用があり、呼吸器系をすっきりさせることで知られています。
また、多くの人がチキンスープの治癒力を信じていますが、これは世界各地の文化に共通する治療法です。これらの治療法の効果には個人差がありますが、多くのオーストラリア人が病気の時に両親や祖父母から受けたケアを思い出し、安らぎと懐かしさを覚えるるのです。
日本人コミュニティ
故郷から遠く離れていても、他の人とつながることは助けになります。下記のような日本人のグループに参加すれば、オーストラリアでのインフルエンザ対策について話を共有したり、アドバイスをもらったりすることもできます。
このようなグループでは、健康イベントや講演会が開催されることもあり、健康について学んだり情報交換することも可能です。
Japanese Community in Brisbane (Facebook Group)
Japanese Culture Groups in Brisbane
Japanese Club of Brisbane Inc (Community Group)
おわりに
オーストラリアでの生活はアドベンチャーです。経験は財産とはいえ、病気になるのは決して楽しいことではありません。
オーストラリアで多くの日本人を診てきた経験上、オーストラリアのインフルエンザについて学び、自分の身を守り、必要であれば周りの人に助けを求めることはとても大事なことだと言えます。
昨年、テレビ朝日のニュースステーションでオーストラリアのインフルエンザ特集があり、私もオーストラリア在住の日本人医師としてインタビューを受けました。クイーンズランド州のスティーブン・マイルズ副首相もインフルエンザについてスピーチをされています。
よろしければ、以下のリンクからその際のビデオをご覧ください。
https://news.tv-asahi.co.jp/news_international/articles/000257548.html
皆さんがにオーストラリアで健康で楽しい毎日を過ごせるようサポートしていきます。
最新ニュース : さくらクリニック ウイルス検査
さくらファミリークリニックでは現在、インフルエンザA型、インフルエンザB型、コロナウイルスの迅速抗原検査(RAT)を行っています。これらの検査はクリニックで迅速に行うことができ、15分以内に結果が出ます。
検査結果が陽性であれば、感染している可能性が高いと判断できますが、陰性であっても必ずしも感染を否定するものではありません。
また、コロナウイルス、A型インフルエンザ、B型インフルエンザ、アデノウイルス、パラインフルエンザ、ヒトメタニューモウイルス、ライノウイルス、RSV(8)のPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)検査も行っています。
この場合、検体を検査機関に送って分析するため、結果が出るまでに24時間以上かかることがあります。この検査はRATよりもはるかに正確で、PCRが陰性であれば、感染症にかかっていないことを示す、より信頼性の高い指標となります。
最近では、発熱のある患者さんにRAT検査を行うことが多くなりました。診療中に素早く診断し、すぐに治療を開始できるようにするためです。

吉田まゆみ医師
MBBS, BMedSci, MRCGP, DFSRH (UK), FRACGP (Australia)
福岡県出身。16才の時に家族で渡英。2003 年に英国ノッティンガム大学医学部を卒業、イギリスの医師免許を取得。2007年にアメリカの医師免許資格(ECFMG Certificate)を取得。2014年に英国オックスフォードでGP課程を習得、イギリスとオーストラリア両国のGP資格を保持する。現在4つ目の国家資格取得を目指し、日本の医師免許試験に向けて勉強中。三児の母。セクシャルヘルスのディプロマを持っており、避妊や性病に関するアドバイスも行っている。一般内科および婦人科、妊婦健診、小児科の診察、予防接種を主に担当している。